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暗号資産を用いた詐欺被害の増加を受け、金融庁と警察庁は2026年8月6日、暗号資産交換業者に対して対策の一層の強化を要請しました。
要請は口座開設時の審査から暗号資産の出庫制限、取引モニタリング、警察との連携まで11項目に及び、暗号資産交換業者が対象とされています。
今回の要請は法改正や新規制の導入ではなく、監督当局が業界団体を通じて実務対応の底上げを求めたものです。
出庫に関する項目も、一定の条件と期間を対象とした制限であり、出庫を一律に停止するという内容ではありません。
本記事では、公表資料と報道内容をもとに、要請の具体的な中身と背景にある被害の内容やトレーダーへ与える影響について整理します。
日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)への要請が行われた背景には、暗号資産が詐欺被害金の受け渡し手段として使われる事例の急速な増加があります。
警察庁の令和7年確定値によると、SNS型投資・ロマンス詐欺では、一次的な主な被害金等の交付形態が実質的に暗号資産であるものが、被害総額の48.6%を占めました。
前年からの上昇幅は22.2ポイントで、被害金の受け渡し手段が暗号資産へ移っている状況がうかがえます。
内訳を見ると、暗号資産送信型の認知件数は2,177件で前年比177.0%増、被害額は247.7億円で同189.7%増でした。SNS型投資詐欺全体では認知件数が9,523件、被害額が1,288億円となり、前年からそれぞれ3,110件、416.9億円増加しています。
金融庁の事務局説明資料(暗号資産に係る規制の見直しについて)によれば、金融サービス利用者相談室には暗号資産に関する相談が月平均300件以上寄せられています。その大半は、詐欺的な投資勧誘に関するものと報告されています。
金融庁は、こうした被害が拡大しやすい要因として、暗号資産取引が非対面で完結するという取引形態の特性を挙げています。
その上で、対策が不十分な暗号資産交換業者が犯罪者に狙われやすいと指摘しており、事業者ごとの対応水準の差が問題として意識されていることがうかがえます。
被害の急増に加え、こうした構造的な事情が重なったことが、業界全体への要請につながったと考えられます。
金融庁が公表した文書では、対策として11項目が示されています。
本記事では、そのうち利用者の取引に直接関係する9項目を中心に、口座開設時、出庫、取引監視の3つに分けて解説します。
口座開設時に関わる項目は2つあります。
口座開設時における不正防止及び実態把握の強化は、口座が犯罪に使われることを入口で防ぐ取り組みです。
金融庁は交換業者に対し、口座売買が犯罪であることを顧客に周知すること、本人確認書類が本物かどうかを確かめる仕組みを整えること、不正利用のリスクが高いと考えられる顧客の属性を調査分析したうえで審査を厳しくすることを求めました。
利用者の立場で見ると、口座開設時に確認される項目が増え、審査に時間がかかる場面も想定されます。
2つ目の確認と注意喚起は、詐欺の被害者になることを防ぐための措置です。
金融庁は、第三者からの指示による口座開設や暗号資産の購入、出庫は詐欺のおそれが高いという注意喚起を行うよう求めました。
例えば、SNSやマッチングアプリなどを通じて知り合った相手から、口座開設や暗号資産の購入・出庫を指示されるケースなどが想定されます。

今回の項目の中でトレーダーの実務に関わる可能性が高いのが、暗号資産の出庫に関する3つの項目です。
出庫とは、暗号資産交換業者に預けている暗号資産を外部のウォレットや他の取引所へ送ることを指します。
1つ目の入金後および購入後の出庫制限は、日本円を入金した後、あるいは暗号資産を購入した後、一定の期間が経過するまで外部への送付をできなくする措置です。
あわせて、制限が解除された後に、まとまった金額や高い頻度で出庫を行う顧客には、取引の背景を確認するよう求めています。
2つ目の出庫先の事前登録制は、送付先のアドレスをあらかじめ登録させる仕組みです。
登録された送付先が詐欺などと関連していないかを確認し、関連が認められる場合は出庫を制限するなどの対応が求められています。
新たに登録した送付先については、一定期間は送付できない扱いとすることも要請に含まれています。
3つ目の出庫限度額の設定とは、一度に送付できる金額の上限です。
金融庁は、顧客ごとのリスク評価や属性、保有資産額、取引の目的、過去の取引状況をもとに上限額を決めるよう求めました。
利用者から引き上げを求められた場合は慎重に対応すること、詐欺の発生状況に応じて機動的に見直すことも明記しています。
取引が始まった後の監視や、不審な動きが見つかった場合の対応に関わる項目は4つあります。
金融庁と警察庁は交換業者に対し、直近の詐欺の手口に合わせた検知の条件を設定すること、利用目的に見合わない取引を見つけること、不正な端末や、不正利用が確認された口座と同じ通信環境からの取引を検知することを求めました。
アクセス環境とは、接続に使われるIPアドレスや端末の情報を指します。
2つ目の疑わしい取引を検知した後の対応は、2段階に分かれます。
不正の確証がある場合には、入出金や入出庫を停止し、口座を凍結する措置を講じることが求められています。
その一方で、確証がない段階では取引をいったん保留して顧客に確認するといった対応が取られます。
金融庁はあわせて、夜間や休日でも速やかに対応できる体制を整えること、犯罪収益移転防止法に基づく疑わしい取引の届出を確実に行うことも明記しました。
3つ目のなりすましが疑われる場合の認証強化では、暗号資産交換業者に追加の本人確認を行うことが求められています。
加えて金融庁は、重要な操作を行う際にフィッシング耐性のある多要素認証を必ず使う仕組みにするよう求めました。
フィッシング耐性のある多要素認証とは、偽のログイン画面に情報を入力させる手口では突破されにくい方式のことで、パスキーなどが該当します。
出庫の手続きなどで、追加の認証を求められる場面が増えると考えられます。
4つ目の名義の一致確認は、銀行から取引所へ入金する際の依頼人名と、取引所の口座名義が同じかどうかを確かめる仕組みです。
名義が一致しない場合には、入金を受け付けないなどの対応が求められています。
今回の措置は法改正や新規制の導入ではなく、監督当局が業界団体を通じて実務対応の底上げを求めた要請という位置づけです。
金融庁は、対策の方法や深度は各交換業者の業務内容やサービス内容、不正利用の発生状況に応じて判断するとしており、システム上の対応が必要で直ちに講じることが困難な場合は計画的に対応することが重要としています。
つまり、具体的な制限日数や限度額が一律に定められたわけではない点は、前提として押さえておく必要があります。
しかし、今後、出庫までに一定の時間を要するケースが生じる可能性があります。
取引所に日本円を入れて暗号資産を購入し、そのまま外部へ送付する手続きを当日中に行うことが難しくなる可能性があります。
なお、こうした運用は、bitFlyerやCoincheck、BITPOINTなど一部の取引所では既に導入されています。以下は各社が公表している内容をもとにした一例で、内容は変更される場合があります。
| 国内の取引所 | 出庫制限 |
| bitFlyer | 入金日時から7日間(168時間)経過するまで (ペイジーやコンビニ入金を利用した場合) |
| Coincheck | クイック入金とコンビニ入金で入金した場合、7日間入金額を暗号資産送金、日本円出金、貸し暗号資産アカウントへの振替に使用できない |
| BITPOINT | 銀行振込・即時入金後、入金相当の暗号資産を7日間出金できない |
出庫や送金を予定している場合は、各交換業者の出庫ルールや事前登録の条件をあらかじめ確認しておくことが重要です。
いずれの手続きも登録内容の確認や反映までに一定の時間を要する場合があるため、余裕を持って進めておくことが望ましいと考えられます。

X(旧Twitter)では、暗号資産の出庫制限について、詐欺被害防止の目的には理解を示しつつ、資金移動の即時性が失われることへの懸念を示す投稿も見られました。
具体的には、取引所で購入した暗号資産をそのまま自分のウォレットへ移す運用が当面難しくなる方向だとして、自分の資産でありながら動かせない時間が増えることに違和感を示す声がありました。
また、国境を越えて自由に入出金できる点が暗号資産の魅力の一つであり、値動きも大きいため、送付を待つ間に市況が変わってしまうという声も挙がっています。
さらに、事前登録や出庫制限、モニタリングの強化が過度になれば利便性が損なわれるとして、利用者の意見も取り入れながら機会損失を招かない設計にしてほしいという意見や、規制の強化が国際的な立ち遅れにつながるのではないかという見方も示されました。
その一方で、以下のような意見もありました。
暗号資産の使い勝手がどう変わるかは、各社が公表する運用ルールを確認しながら判断していく形になると考えられます。